日本の経済状況について考える上で欠かせないのが、「国の借金」についての視点です。国の借金にはいろいろな尺度があり、例えば「日本の公債残高」で見ると、2018年時点で約883兆円とされています。これは、一般会計税収(2018年時点で約59兆円)の約15年分に相当し、国民1人当たりに換算すると約700万円。しかも年々増加しています。
各メディアでは、この公債残高を日本人の平均年収などと比較しながら、不安をあおる論調が目立ちます。一方、国際通貨基金(IMF)が発表している「財政モニター」など、バランスシートに着目した異なる論調もあります。では、確かな真実はいったいどこにあるのでしょうか。そこで本稿では、注目を集めた財政理論「シムズ理論」を取り上げ、日本の現状とインフレについて考えていきましょう。
国の借金は本当に問題なのか?
「国の借金額が国内総生産(GDP)の2倍に!」「国民1人当たり数百万円の負債!」。このような論調からイメージするのは、将来的な日本の財政破綻です。2000年以降、ギリシャ、ウクライナ、コートジボワールなどデフォルト(債務不履行)に陥っている国々が幾つかあるように、このままではいずれ日本もデフォルトに陥ってしまうのではないかと懸念されています。
確かに、公債残高に政府短期証券や借入金を加えると1,000兆円を超える現状は、由々しき事態であることに変わりありません。一方、そのような論調には、巨額な政府資産の存在が無視されています。さらに、借金の大半は日本銀行などが保有していることを考えると、過去にデフォルトに陥った諸国とは事情が違うことも浮き彫りになってきます。
シムズ理論の「物価水準の財政理論(FTPL)」とは
“財政健全化”と聞いて、「歳入と歳出の差(財政収支)を改善し、公債残高を減らさなければならない」と、つい私たちは考えがちです。なぜなら、財政収支を放置すると円の価値が下がり、物価が上昇してインフレが起こると懸念されるためです。しかし、バランスシート的に考えたり、あるいは借金の中身を検討したりすることで、違った見方をすることも可能です。さらに、「シムズ理論」が主張するように、インフレになることが必ずしも悪い影響ばかりを与えるとは限らないようです。
シムズ理論の概要
シムズ理論は、2011年にノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のクリストファー・シムズ教授らが提唱する財政理論です。シムズ理論の正式名称は、「物価水準の財政理論(FTPL:Fiscal Theory of the Price Level)」。この理論は、安倍政権で経済ブレーンを務め、アベノミクスにも大きな影響を与えたエール大学名誉教授の浜田宏一氏が注目していたことでも話題となりました。
ポイントは“意図的な物価上昇(インフレ)”にある
シムズ理論のポイントは、意図的に継続的な物価上昇(インフレ)を引き起こすことにあります。インフレを誘発して物価を上げれば、既存の借金額も相対的に減り、結果的に負担も軽減されるというわけです。極端な例を挙げれば、インフレによって物価が10倍になり、GDPや歳入も10倍になれば、借金を返済することはそう難しくないという考え方です。
シムズ理論の問題点とは
確かに、意図的にインフレを誘発するだけで国の財政を健全化させられるのであれば理想的な政策だとええるでしょう。国民にとって痛みを伴う増税や社会保障費の削減もないため、国民の同意も得られやすいといえます。しかし、ハイパーインフレーションや物価の安定を損なうことへの懸念からシムズ理論を危険視する人も多く、いまだ実現には至っていないのが現状です。
財政理論をベースに日本経済とインフレについて考えてみよう
このように、話題となった財政理論の中身を知ると、日本経済が抱えている現状がより明確になります。実現の可能性や、誘発される諸問題の懸念すべき点も含め、シムズ理論を通じて経済とインフレについての認識をより深めてみることも、これからの日本経済を考えていく上で重要だといえるでしょう。
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